“人々のための車”を越えて──フォルクスワーゲン開発秘話:魂を宿した “ひとつの社名”

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序章:人民の車として生まれた夢

1937年5月、ドイツ・ヴォルフスブルクにて設立された電動自動車でもスーパーカーでもない、ひとつの自動車メーカー。フォルクスワーゲンという社名は、ドイツ語で “Volks(人々)”+“Wagen(車)”を意味し、文字通り「人々の車」を掲げた。 ウィキペディア
その背景には、戦前の政治的プロジェクトとしての側面もあるが、車好きにとって忘れてはならないのは──この“人民の車”が、後に世界的な自動車ブランドへと成長するという、壮大な飛躍の始まりだった。

このブランドが歩む道はいつも、平易さと革新のはざまにあった。小さな空冷ビートルから、ゴルフへ、さらには電動ID.シリーズへと、時代を映す鏡のように進化した。だが、クルマ好きの胸を高鳴らせるのは、単なる進化ではなく、「意志を持った開発の物語」だ。


I. 荒廃から再起へ──戦後フォルクスワーゲンの挑戦

第二次世界大戦後、フォルクスワーゲンの工場は連合軍による接収を受け、機能を停止する可能性にも直面していた。だが、英軍少佐 Ivan Hirst の指揮のもと、工場は民生復活への第一歩を踏み出す。 ウィキペディア
「人々のための車を、再び作る」と決意を込めて。
この静かな覚悟が、フォルクスワーゲンの開発精神の基盤となった。
そして1950年代、人々を運び始めたビートルは、単なる車以上の存在となった。

その後、1974年のゴルフ登場までの過程は、技術革新と市場の変化の激流の中での「人と車の共存」を模索する開発物語そのものだった。
“安価で信頼できる車”という原点から、快適性・安全性・性能を兼ね備えた“グローバルカー”へ。
車好きの心をくすぐるフレーズで言えば──「日常を支える優しさ」と「未知への探究心」が、ハンドルに宿った。


II. ゴルフ/GTI誕生──パフォーマンスと普及の両立

1974年に登場したゴルフ(Mk1)は、フォルクスワーゲンにとって転換点だった。
それまで“人々の車”として刻まれてきたブランドが、“性能”という領域にも踏み込んだ瞬間だった。
この時期、フォルクスワーゲン技術陣のひそやかな信念があった。
「普及車だからといって、走りを犠牲にしてはいけない」と。

その結実が、GTIモデルだ。
“ホットハッチ”という言葉が欧州で普及し始めた時代、フォルクスワーゲンはその流れを自ら作る側に回った。
ゴルフGTIは、日常使用できる実用性と、ワインディングを走らせた時の“歓び”を両立させた。
つまり、「平凡な日常」と「非日常の走り」を、ひとつの車に共存させたのである。

技術的には、軽量化の工夫、シャーシ剛性の向上、エンジンレスポンスの改善。
車好きの視点で言えば、“峠で唸るハッチバック”という衝撃を与えたモデルだった。
その裏側には、「人々の車だから軽薄ではない」という開発者のプライドがあった。


III. 「GTIクラブスポーツ」から「R32/R36」へ──ブランドが内包した走りのDNA

フォルクスワーゲンが単なる“大衆車メーカ”を脱却し、“スポーティブランド”の顔も持つようになったのは、この時期の積み重ねがあったからだ。
技術開発部門では、軽量化・ターボ化・多連装機構などが試され、ついには「ゴルフR」「シロッコR」といった派生モデルが生まれ始める。

そして21世紀に入ると、プラットフォーム共有を活用しながらも“走り”に特化したモデル群が打ち出された。
特筆すべきは、「エンジン縦置き」「四輪駆動」「高剛性シャーシ」といった要素を“普及ブランドの枠”で実現しようとした姿勢である。
これはまさしく、かつての“人々の車”という理念と、“スポーツマシン”という矛盾を融合する挑戦だった。

開発者の一人はこう語る。

「我々が作るのは、市民が駐車場にも入れられて、同時にサーキットでも走れる車だ。
それがフォルクスワーゲンの走りの未来だ。」

この開発哲学は、その後のGTI/Rシリーズ、さらには電動化への移行期においても、フォルクスワーゲンの根幹として生き続ける。


IV. モジュラープラットフォームと電動化──新たな挑戦としての“人々の走り”

時代は、環境規制、電動化、ソフトウェア制御の時代へと移り変わる。フォルクスワーゲンも例外ではない。
ブランドWikipediaによれば、フォルクスワーゲンは「2025年までに30以上のEVモデルを投入する」など、未来への旗を掲げている。 ウィキペディア
しかし、車好きの心を揺さぶるのは、単に“電動になった”ことではない。
「人々の車」であったフォルクスワーゲンが、改めて“人々の走り”を再定義しようとしている点だ。

たとえば、プラットフォーム「MEB」やID.シリーズの登場は、技術の頂点ではなく、普遍的体験を革新する装置として位置づけられている。
この姿勢こそ、開発秘話として語る価値がある。
時代が変わっても、フォルクスワーゲンの開発魂は“人と車の関係”を問い続けている。


終章:クルマ好きのための“普通と特別の交差点”

フォルクスワーゲンの歴史を紐解くと、そこには“日常性”と“非日常性”が重なり合っている。
30〜50代のクルマ好きにとって、ひとつのブランドが普通車としても、スポーツ車としても成立するという希有な体験を持つことは、あまりない。

「ただの人々の車」であったフォルクスワーゲンが、開発の中で“走る悦び”を取り入れ、そして“革新”を苛まれてきた。
そのプロセスは、トリビアや逸話に満ちている。
たとえば、戦後復興の中での工場再建、ホットハッチの先駆け、モジュラープラットフォームの導入。
いずれも、車好きの胸の奥をくすぐる物語だ。

そして、このブランドが問いかけるのは――
「平凡な存在だからこそ、特別な体験を宿せるか」だ。

もしあなたが、駐車場から発進し、夕暮れのワインディングを駆け抜け、そして翌日普通に通勤に使える車を望むなら――
それがフォルクスワーゲンの開発思想だったのだ。

そしてその思想を胸に、ひとりハンドルを握るとき。
あなたはきっとこう思うだろう。
──「このクルマに、“人々のため”以上の魂が宿っていた」と。

 


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