アウディは海外で何と呼ばれる?──「Four Rings」に込められた4社の歴史と、マニアが使う“Ur-quattro”

GTNET

「BMW=Bimmer」のように、アウディにも世界共通の有名な愛称があるのだろうか。

答えは少し複雑だ。

英語圏でもブランド名そのものは基本的に「Audi」と呼ばれており、BMWのBimmerほど広く定着したブランド全体のニックネームがあるわけではない。

しかし、海外のアウディ関連記事を読み込んでいくと、実に面白い表現が登場する。

Four Rings。

Ur-quattro。

Silver Arrows。

そして歴史をさらに遡れば、

Auto Union。

これらは単なる愛称ではない。

アウディというメーカーがどこから来て、どんな技術で世界へ名前を刻んだのか。その歴史そのものが凝縮された呼び名なのである。

「Four Rings」──海外でアウディを象徴する言葉

海外のアウディ公式記事で頻繁に登場する表現が、

Four Rings

だ。

直訳すれば「4つの輪」。

つまり、あのアウディのエンブレムを指している。

アウディ公式資料でも、ブランドや企業そのものを象徴する表現として「the Four Rings」が繰り返し使われている。

この4つのリングは単なるデザインではない。

1932年、ドイツ・ザクセン地方を拠点としていた4社が統合してAuto Union AGが成立した。

その4社とは、

Audi
DKW
Horch
Wanderer

である。

4つのリングは、この4メーカーを表している。

つまりアウディのエンブレムは、もともと「Audiだけ」を意味するマークではなかった。

4社が手を組んだAuto Unionのシンボルだったのである。

これを知ると、アウディのフロントグリルを見る目が少し変わる。

4つのリングは装飾ではない。

約1世紀にわたる企業史を、そのままフロントマスクに載せて走っているのだ。

そもそも「Audi」という名前自体が言葉遊びだった

さらに面白いのがAudiというブランド名そのものだ。

創業者アウグスト・ホルヒは、自らの姓「Horch」を冠した会社を離れた後、新会社で同じ名前を使用できなくなった。

そこで「Horch」をラテン語へ置き換えるアイデアが生まれた。

ドイツ語の「horch!」は「聞け!」という意味。

そのラテン語に相当する命令形が、

Audi!

だった。

Audi公式の企業史でも、この名前は「Horch」をラテン語化したものとして説明されている。

つまりAudiという名前は、人名をそのまま使ったブランドではない。

創業者の名前を別言語へ変換して復活させたブランド名なのである。

クルマ好きの飲み会で使えるトリビアとしては、かなり強い。

マニアが使う「Ur-quattro」とは?

アウディ好きの世界へ一歩深く入ると、

Ur-quattro

という言葉に遭遇する。

これは1980年に登場した初代Audi quattroを指すときに使われる呼称だ。

ここで重要なのが「Ur」というドイツ語。

英語圏の記事では「original」「original quattro」などと説明されることが多く、日本語の感覚なら、

「元祖quattro」

「始祖quattro」

あたりが近い。

なぜわざわざUr-quattroと呼ぶのか。

理由は「quattro」という言葉が、その後あまりにも巨大になったからだ。

現在ではquattroは特定の一車種だけを意味しない。

アウディの四輪駆動システム、そして多数のquattro搭載モデルを意味する言葉になっている。

そこで、ラリーを変えたあの初代クーペと後世のquattroを区別するため、「Ur-quattro」という呼び方がエンスージアストの間で使われるようになった。

ちなみにAudi自身も歴史資料などで「Ur-quattro」という呼称を使用することがある。

マニア同士なら、

「初代quattro」

より、

「Ur-quattro」

のほうが話が早い世界があるのだ。

小文字の「quattro」にも意味がある

もう一つ覚えておきたいのが表記だ。

Audiの四輪駆動技術は、

quattro

と小文字で表記されるのが基本である。

単なる4WDの一般名詞ではなく、アウディを象徴する技術ブランドだ。

雪道でのトラクション。

ラリーでの圧倒的な加速。

舗装路での安定性。

そして現在の高性能RSモデルまで。

quattroという一語だけで、アウディの走りを連想するファンは世界中にいる。

ブランド名そのものの愛称ではないものの、アウディにとっては「Four Rings」と並ぶほど強力なアイデンティティと言っていい。

「Silver Arrows」──アウディ以前の怪物たち

アウディの歴史をさらに深掘りすると、もう一つ強烈な呼び名が出てくる。

Silver Arrows(シルバーアロー/銀の矢)

だ。

「それってメルセデスの呼び名では?」

と思った人は鋭い。

実際、Silver Arrowsはメルセデス・ベンツのレーシングカーを語る際にも非常に有名な名称だ。

しかし1930年代には、Auto UnionのグランプリカーもSilver Arrowsと呼ばれていた。

Audi自身も公式ヒストリーで、メルセデス・ベンツとAuto Unionのレーシングカーを「Silver Arrows」と表現している。

しかもAuto Unionのマシンは、とんでもない設計だった。

フェルディナント・ポルシェが開発に関与し、エンジンをドライバー後方へ搭載。

Type CではV16スーパーチャージャーエンジンが520PSにまで発展したとAudiは記録している。

現代風に言えばミッドシップ。

つまり、1930年代にすでに巨大なV16を背中に積んだグランプリカーを走らせていたのである。

400km/hを超えた「Four Rings」の祖先

Silver Arrow時代には、さらに凄まじい記録がある。

ベルント・ローゼマイヤーは1937年、ストリームライン化されたAuto Union Type Cを駆り、公道上で400km/hを超えた最初の人物になったとAudiは記録している。

さらに1930年代のAuto Unionマシンは、AVUSの高速区間で約380km/hへ到達していたという。

現代のスーパーカーでも300km/hは特別な領域だ。

それを90年近く前のマシンが超えていた。

タイヤもブレーキも空力解析も、現代とは比較にならない時代である。

Silver Arrowsという美しい呼び名の裏側には、

とてつもなく危険で、とてつもなく速い機械

という意味も隠れている。

「Auto Union」は現在のAudiとは同義ではない

海外のクラシックカー記事では「Auto Union」という名前も頻繁に登場する。

ここは少し注意したい。

Auto Union=現在のAudi、と完全に同一視すると歴史的には雑になる。

Auto Union AGは1932年にAudi、DKW、Horch、Wandererの4社が統合して成立した企業だ。第二次世界大戦後には旧会社の設備が接収され、1949年に西ドイツのインゴルシュタットでAuto Union GmbHが新たに設立された。

その後、ダイムラー・ベンツ傘下、フォルクスワーゲン傘下への移行、NSUとの合併などを経て、1985年に現在のAUDI AGという社名になる。

だから現在のアウディはAuto Unionの歴史を受け継いでいるが、

「1930年代のAuto Union=そのまま現在のAudi」

という単純な話ではない。

この複雑な系譜こそ、Four Ringsが面白い理由でもある。

海外では「Audi」より「quattro」が強烈だった時代もある

1980年代のモータースポーツを知るファンにとって、Audiとquattroはほとんど切り離せない。

永久四輪駆動を武器に世界ラリー選手権へ参戦すると、アウディは1982年にマニュファクチャラーズタイトル、1983年にハンヌ・ミッコラのドライバーズタイトル、1984年にはスティグ・ブロンクビストのドライバーズタイトルとマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。

そのインパクトによって「quattro」は単なる車名を超えた。

4WDスポーツを象徴する単語になったのである。

海外のアウディファンがUr-quattroやSport quattroに特別な敬意を払うのは、単に古いからではない。

現在では当たり前になった“高性能車+4WD”の価値観を世界へ叩きつけた存在だからだ。

実は「Audi 72」と呼ばれた名無しのAudiもあった

アウディ史には、かなりマニアックな呼び名も存在する。

戦後にAudiブランドが復活した際、最初のモデルには当初、数字のモデル名が付いていなかった。

ところが72PSだったため、顧客やメディアから非公式に、

Audi 72

あるいは、

Audi(72 PS)

と呼ばれるようになった。

Audi公式の2025年資料でも、この非公式名称が紹介されている。

後にAudi 80、Super 90、Audi 75、Audi 60などが登場するが、最初の一台だけは正式には「72」を名乗らなかった。

ファンやメディアが必要に迫られて名前を付けてしまったわけだ。

こうしたエピソードも、長い歴史を持つメーカーならではである。

海外の呼び名から見えてくるアウディの正体

Four Rings。

Ur-quattro。

quattro。

Silver Arrows。

Auto Union。

Audi 72。

並べてみると、BMWのBimmerのような親しみやすい愛称とは少し雰囲気が違う。

アウディの呼び名は、

技術と企業史から生まれたものが多い。

4社の合併からFour Ringsが生まれた。

ラリー革命からUr-quattroが特別な存在になった。

グランプリ史からSilver Arrowsが残った。

ブランド復活期には、正式名称すらなかったクルマを人々がAudi 72と呼んだ。

そして「Audi」というブランド名自体が、創業者Horchの名前をラテン語へ変換したものだった。

つまりアウディは、名前を掘るだけでも歴史が出てくる。

海外の記事で「Four Rings」や「Ur-quattro」という単語を見つけたら、それは単なる格好いい言い換えではない。

4つのリングの奥にある、100年近い物語への合言葉なのである。

FAQ

アウディにはBMWの「Bimmer」のような愛称がありますか?

BMWのBimmerほど世界的に定着した単一のブランド愛称はありません。一方、Audi公式の英語記事ではブランドを象徴する表現として「Four Rings」が頻繁に使われています。

アウディの4つのリングにはどんな意味がありますか?

1932年にAuto Union AGを形成したAudi、DKW、Horch、Wandererの4社を表しています。現在のAudiはこの歴史を継承しています。

Ur-quattroとは何ですか?

1980年に登場した初代Audi quattroを、後のquattro搭載車や四輪駆動システムと区別するために使われる呼称です。「Ur」はドイツ語で「原初の」「元祖の」といったニュアンスを持ちます。

Silver Arrowsはメルセデスだけの愛称ではないのですか?

1930年代にはメルセデス・ベンツだけでなく、Auto UnionのグランプリカーもSilver Arrowsと呼ばれていました。Audi自身も公式ヒストリーでこの呼称を使用しています。

「Audi」という名前にはどんな意味がありますか?

創業者アウグスト・ホルヒの姓「Horch」に由来します。「horch!」=「聞け!」をラテン語へ置き換えた「Audi!」が新しいブランド名として採用されました。

「Audi 72」というモデルは実在した?

通称としては存在しますが、「72」は正式なモデル名称ではありません。戦後復活した最初のAudiが72PSだったことから、顧客やメディアが非公式にAudi 72と呼んでいました。

 


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