世界が惚れ込んだ「駆け抜ける魂」──BMWの海外呼称に隠された物語

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「BMW」とは何者か ― 呼び名に刻まれた“走りの哲学”

BMW ― “Bayerische Motoren Werke”という長い正式名称を持つこのブランドは、世界中で多くの愛称と異名で呼ばれてきた。それは単なる略称やスラングではない。人々がBMWというクルマに抱く感情、敬意、そして畏怖が、その呼び名に込められているのだ。

ある者は「バイエルンの心臓」と呼び、ある者は「ドライバーズカーの帝王」と讃える。呼び名は国や世代によって異なるが、共通しているのは「BMWはただの移動手段ではない」という認識である。ここでは、そんなBMWが海外でどのように呼ばれてきたのか、その背景と逸話を深掘りしていこう。


「ビーエム」から「ビーマー」へ ― 英語圏で愛された相棒の名

最も有名な呼び名といえば、英語圏で広く使われる**「Beemer(ビーマー)」「Bimmer(ビマー)」だ。
一見同じように見えるこの2つ、実は
使い分けが明確**に存在する。

  • Beemer(ビーマー):もともとBMWのオートバイを指す呼称。

  • Bimmer(ビマー)自動車を指すスラングとして使われる。

この違いは、戦前からモーターサイクルを手がけてきたBMWが、英国市場で英国ブランド「ビーザー(BSA)」と競った時代にまで遡る。ファンが「ビーザー」に対して親しみを込めて「ビーマー」と呼んだのに倣い、BMWのバイクも同様に「Beemer」と呼ばれるようになったのだ。

その後1970年代、北米でBMW自動車が人気を博すにつれ、「バイクと区別するための新しい呼び名」が求められ、**『Bimmer』**というスラングが生まれる。これは当初、カリフォルニアのBMWファンクラブ「Bimmer Magazine」が提唱したもので、今では自動車ファンの間で定着している。

「Bimmerとは、ただのクルマではない。“機械”と“魂”の融合体だ。」
──Car and Driver(1982年7月号)


「アルティメット・ドライビング・マシン」 ― アメリカが名付けた究極の称号

北米市場でBMWの代名詞とされるのが、**「The Ultimate Driving Machine(究極のドライビングマシン)」**というフレーズだ。これは1970年代後半、BMWがアメリカ市場向けに展開した広告キャンペーンのキャッチコピーで、以後半世紀近く使われ続けている。

このコピーが生まれた背景には、当時のアメリカ車文化がある。V8エンジンによる直線加速こそが“速さ”とされた時代に、BMWはあえて「コーナリング」「ステアリングフィール」「人馬一体感」という“走りの質”を前面に押し出した。
そのアプローチはアメリカ人の価値観を変え、「BMW=走りの愉しさ」というイメージが定着することとなった。

「BMWは単なるクルマではない。それは“究極のドライビングマシン”だ。」
──BMW USA広告(1975年)

このコピーは今も進化を続け、近年は「Sheer Driving Pleasure(駆け抜ける歓び)」と共に世界中の広告に登場する。“走り”そのものがブランドの本質であることを、BMW自身が言葉で体現しているのだ。


「バイエルンの矢」 ― ドイツ国内でのニックネーム

母国ドイツでもBMWは数多くの愛称を持っている。その中でも象徴的なのが**「Bayerischer Pfeil(バイエルンの矢)」だ。これは1970年代、ツーリングカーレースで無双した3.0 CSLE30 M3**の圧倒的なスピードを表現した言葉であり、雑誌記事の見出しやポスターで頻繁に使われた。

また、エンスージアストの間ではBMWを単に**「Bayer」**(バイエルンの意)と呼ぶこともある。これは地元ミュンヘンで生まれた誇りの象徴であり、ドイツの自動車ブランドの中でも「もっとも“バイエルンらしい”ブランド」としての地位を表している。


「ジャーマン・マッスル」 ― アメリカのマニアが付けた異名

アメリカでは、M5やM8のようなハイパフォーマンスモデルに対して**「German Muscle(ジャーマン・マッスル)」という呼び名も存在する。
これは、従来“マッスルカー”といえばアメリカ製V8セダンを指していたのに対し、M5が
600馬力級のモンスターエンジンと高級感を兼ね備えた存在**として登場したことが由来だ。

特にF90 M5は、ドラッグレースでもアメリカ製チャレンジャーやカマロと互角以上の勝負を繰り広げ、「ドイツ車がマッスルカーの領域に踏み込んだ」として話題を呼んだ。

「M5はラグジュアリーでありながら、地平線を突き抜ける加速を持つ。これはまさに“ジャーマン・マッスル”だ。」
──Motor Trend(2018年3月号)


「ドライバーズカー」 ― 英国で根付いた“通の呼称”

イギリスの自動車文化では、BMWは単なる高級車ではなく、「Driver’s Car(ドライバーズカー)」という言葉で語られることが多い。この呼称が広まった背景には、英国特有の“ハンドリング重視”の価値観がある。

E46 M3やE39 M5といったモデルは、ステアリングフィールとバランスの良さで英国メディアに絶賛され、「操る悦び」という概念を再定義した。
ジャーナリストのクリス・ハリスはこう語っている:

「M3はパワーではなく、ドライバーとの対話力でライバルを圧倒する。ステアリングを握った瞬間、機械が生きていることを感じる。」


「バイエルンの刀」 ― 日本で生まれた異名

意外なことに、日本でもBMWは独自の異名を持つ。なかでも愛好家の間で語り継がれるのが、**「バイエルンの刀」という呼び名だ。
これはE46 M3 CSLやM2 CSのような「研ぎ澄まされたドライビングマシン」に対して使われる表現で、
“鋭さ”と“職人技”**を兼ね備えた走りへの敬意が込められている。

「バイエルンの刀」という言葉は、単なる速さではなく「ドライバーの技術を引き出す精密機械」としてのBMW像を象徴している。日本の自動車雑誌『GENROQ』や『CAR GRAPHIC』でもしばしば用いられ、「欧州車の中で最も日本刀的」と評された。


終章:「呼び名」は、走りへの愛の証

“Bimmer”、“Beemer”、“The Ultimate Driving Machine”、“German Muscle”、“Driver’s Car”――
それぞれの呼び名は、ただのニックネームではない。
それは、世界中の人々がBMWというブランドに抱いてきた情熱・敬意・物語の証だ。

ドイツではバイエルンの誇りとして、アメリカでは走りの哲学の象徴として、イギリスではドライバーズカーの代名詞として、日本では刀のような精密機械として――BMWはその土地ごとに異なる姿を見せながらも、本質は一つとして変わらない。

「走りこそがすべて」。
その信念がある限り、BMWは世界中で呼び名を増やし続けるだろう。なぜなら、人々がその走りに心を奪われるたびに、新しい呼称が生まれるからだ。